Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.66 - 2019/4/22《from 新潟支所》

中野 一敏/ナカノデザイン一級建築士事務所

□2014年6月
 2015年3月の北陸新幹線開業まで1年を切った頃、上越妙高駅前には140m超のツインタワー計画が立ち上がっていた。私も平原匡さんから、コンテナを使った屋台村をつくる相談をいただき、検討を始めていた。平原さんは、大学、大学院で建築を学び、株式会社北信越地域資源研究所を起業。地域活性化コンサルタントとして走り出していた。最初のコンセプトスケッチの段階から、小規模事業者が集まる横丁のような場と、雁木(屋根付き通路)があり雪に埋もれる空間を思い描いていた。


図1:コンセプトスケッチ 2014年6月

□扇形敷地
 平原さんから、西口と東口のどちらが良いかと相談を受けた。街づくりの主となるのは東口であるが、妙高への眺望に恵まれた西口の方が、この地を訪れる人にとって印象深いであろうという意見で一致した。地権者団体より、桜並木の遊歩道に隣接する扇形の敷地を勧められた。形状が悪いから最後まで利用者は見つからないだろう(結果的に周辺の計画は進まず、フルサットがトップランナーになってしまうのだが)。若い人が新しいことに挑戦するにはちょうど良かった。扇形の敷地も、隙間をあけながらコンテナを並べれば問題ない。隣接する桜並木の遊歩道からつながるオープンスペースにコンテナが点在し、アクティビティが表出するイメージを思い描いた。


写真1:FURUSATTO(フルサット)敷地

□雁木=開放された私有地
 平原さんより、誰でも利用できて、テイクアウト商品を食べる事もできる屋根付きのスペースが欲しいという要望を頂いた。そうした特別な場所を作るのではなく、屋根付き通路として計画していた雁木の幅を広げることを提案した。私有地としての性格を持ちながら開放されている雁木空間に親しんできた上越市民にふさわしい、コモンスペースに進化した雁木空間を思い描いていた。


写真2:左:お賽銭箱のある神社の雁木(上越市高田)/ 右:フルサット雁木空間

□見切り発車
 2014年12月、平原さんは、2015年3月の新幹線開業を目指して、10店舗程度のテナントが入る商業施設フルサットをいち早くオープンすると発表する。しかし、テナント募集は進まず、開業前にオープンさせることはできなかったが、それがまたニュースとなりフルサットの知名度は上がっていく(後に、この地では、延期、計画変更は当たり前になってしまうのだが)。
□コンテナ登場
 2015年3月の新幹線開業後も、周辺の開発は進まなかった。平原さんは、将来的に移設してフルサット本体に組み込む前提で、一台のコンテナを仮置きする決断をする。何もない原っぱに、白いコンテナが一つ置かれるシーンは、進まない開発の中での挑戦として象徴的にメディアに取り上げられた。
仮置きしたコンテナを拠点として、テントによるイベントを催しながら出店者募集を続けた。テナントとして入るのはハードルが高いが、イベントで場所ができると、出店してみようという人たちがいる。新しい街ができても、こうした人たちの居場所がなかった。この人たちの居場所を創ることができる建築が必要なのではないか。グランドオープンなどせずに、このまま拡張していければ良いのではないか。そんな思いが強くなっていった。実際に、コンテナが置かれたことで、フルサットが完成したと勘違いする人たちもいた。


写真3:原っぱに置かれたコンテナ2015年6月

□最小敷地500㎡の壁
 各テナントが独立店舗感覚で、自由に窓を設計できるのがフルサットの特徴である。外のオープンスペースを活かした店舗設計をすることで、この場所ならではの個性が生まれて、大きな箱の中に複数のテナントが入る商業施設と差別化できると考えていた。しかし、テナントが見つかってから建物本体の設計をする必要があるため、建物本体と、その内部のテナント設計を分けて進める商業施設と比べて設計に時間がかかる。さらに、この地の地区計画には、最小敷地500㎡の壁があり、いくつかのテナントが集まった規模にならないと先に進めない。これらが原因で、先に出店を決意したテナントを待たせすぎて逃がしてしまう事もあった。しかし、こんな時間をかけるやり方ができるのは、周りの開発が進まないこの地の個性で強みでもあるのだった。
□(仮)グランドオープン
 じっくりと進めていくつもりであったのだが、いくつかのテナントが集まるとグランドオープンという要望が強くなっていった。テナントが決まらず、計画途中で投げ出されたコンテナや、テナント内部と関係のないオープンスペースを含みながら、2016年6月グランドオープンをむかえた。
設計者の思い描いた計画は未完成である。しかし、建築物として未完であるほど、コンテナとしての属性が際立つ。計画意図の弱いオープンスペースは、コンテナのある原っぱのようで、子供たちが駆け巡った。隅々まで計画されて店舗になったコンテナ商業施設にはない魅力を持つことになった。そして、グランドオープンと同時にリノベーションと増設がスタートした。


写真4:フルサットの風景

□偶有性の世界で活きる建築
 同時に複数の小規模事業者の要望に応えるという状況は、予期できない変化にあふれていた。与条件から最適解を導くような設計思想は無理があり、分かりやすく、親しみやすく、予期できない変更を糧にして魅力を増す建築システムを模索した。移設可能なユニット建築で、コンテナという初期属性を持つコンテナ建築に可能性を感じて、地方の問題解決へ向けた活用を試みている。


写真5:フルサット空撮 2019年【EGAO 2019年springより掲載】