《富山》とやまたてもの探偵団2018‐「高岡周辺の近代建築めぐり」
AH! vol.65 - 2019/1/7《from 富山支所》
萩野 紀一郎/富山大学芸術文化学部 准教授
□ 高岡の近代建築
第二次世界大戦で空襲を受けた富山市に比べ、高岡市内には戦前の近代建築が数多く残っている。しかし、それらの建物の中には存続の危機に瀕しているものも少なくなく、それらの保存・活用が大きな課題である。そこで、今年度のとやまたてもの探偵団2018は、2018年9月29日、職藝学院の森本英裕先生を講師に招き、高岡市において、身のまわりにどのような近代建築があり、どのような状況にあるのか、歩きながら見てまわることにした。当日は、高岡工芸高校の高校生、富山大学芸術文化学部の学生と教員、職藝学院の学生と職員、建築の設計や保存の仕事に関わっている方々、大工や左官職人、建築好きな一般の方々など、様々な世代・様々なバックグラウンドの総勢34名が集まり、高岡市の伏木地区および山町筋を中心に探訪した。
□ 旧伏木測候所と伏木のまち歩き
まずは、伏木地区へ移動し、旧伏木測候所(現高岡市伏木気象資料館、1907年建築、2017年復元保存改修)を見学した。この建物は、職藝学院の上野幸夫先生および今回講師に招いた森本先生が、残された古写真をもとに塔屋の復元を行った貴重な明治洋風建築である。森本先生だけでなく、工事に関わられた大工の稗苗さんや左官の寺西さんも見学会に参加されていたので、みなさんから、復元保存改修工事の詳しい説明や苦労話を伺った。工事中、床下から塔屋に使われていたと思われる部材が発見されたことや、塗装をサンドペーパーでこすることで何層にも塗装された痕跡を見出し、オリジナルに近い色へと復元されたなど、現物を見ながら様々な興味深い話を伺うことができた。
その後、北前船で栄えた港町の栄華を残しながら、現在ではレトロ感漂う伏木のまちを歩きまわり、旧伏木銀行(現・高岡商工会議所伏木支所、1910年建築)にも寄り、商工会議所のご厚意で、内部も見学させていただいた。
□ 近代水道の発祥
次に高岡の街中へ移動し、高岡の近代水道の発祥といわれる旧配水塔(現清水町配水塔資料館、1931年)を見学した。円筒形の独特の外観で、アーチ窓がつけられたコンクリート造のモダンでユニークな建築物である。
□山町筋の土蔵づくり町家と近代建築
そして、重要伝統的建造物群保存地区・山町筋へ移動。
土蔵造り町家や近代建築をリノベーションしたレストラン数軒に分かれて昼食をとり、森本先生たちが保存再生に関わられた高岡市御車山会館の旧佐渡家土蔵(大の蔵1825年、中の蔵1695年)を見学。ここでも森本先生に加え、工事に関わった左官の寺西さんから、工事中の話、特に土蔵の曳家や左官工事について詳しい話を伺った。
次に、富山大芸文の前身の高岡短大および職芸学院出身で伝統木造工事を行っている工務店・松匠の若松棟梁が改修保存して自宅として活用している土蔵造り町家を見学。若松棟梁のご子息の高校生も見学会に参加されており、住民としての話を伺うこともできた。
その斜め向かいには、見学会に参加いただいた文化財保存計画協会の佐藤桂さんの親の御実家の土蔵造りの町家があり、内部も見学させていただき、佐藤さんから子供時代に体験した土蔵造り町家の思い出話も伺った。
さらに、富山銀行本店(旧高岡共立銀行本店)、井波屋仏壇店、塩崎衡商、菅野家住宅など、山町筋の近代建築や土蔵造りの町家群を散策。最後に、文具商の建物と土蔵群をリノベーションした山町ヴァレーを訪問し、改修に関わられた町衆高岡の建築家・大菅洋介さん、漆工芸家・国本耕太郎さんに来ていただき、改修にいたった経緯や、この建物や山町筋全体で展開されている様々な活動についてお話を伺った。
□さいごに
あいにくの秋雨模様でしたが、高岡に残る様々な近代建築を数多く、実際に訪問して実際に空間体験することができ、さらにはそれらの保存に関わったり、そこに暮らしたり活用したりしてるし人たちから生の声も伺うことができた。参加者も10代から60代まで、地元の人から遠方から訪問者まで、実に多様な人たちであったが、近代建築とその空間や背景を共有することで、参加者どうしにも熱い交流が生まれた一日でした。
最後に、職藝学院の森本先生はじめ、様々な話を共有していただいた参加者の方々へ感謝します。