Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.65 - 2019/1/7《from 新潟支所》

後藤哲男/長岡造形大学造形学部建築・環境デザイン学科 前教授
飯野由香利/新潟大学 人文社会科学系教授
広川智子/長岡造形大学教務補助職員

□楽しく学んで、理論と体験を融合させる
中高生を主たる対象とする本建築講座は、簡単、楽しく、体験的に建築の仕組みについて学ぶことを目標にしている。頻発する地震災害では、個人の判断による避難行動を前提として身の安全を確保することが求められている。どこに逃げるか、どの建物が安全かということを常に意識できるように、日頃生活する地域を知り、建物の安全の仕組みを理論的かつ体験的に理解する重要性が増している。一方、地球の持続可能性を確保するためには地球温暖化を阻止し、二酸化炭素排出を押さえる省エネ化を実行する必要がある。しかし耐震化や省エネ対策は行政主導であり、個人のレベルでの知識の共有化は進んでいない。国民の一人一人が地域や建築を深く理解し、教養化することをめざして、主たる対象を中学生とする建築講座の開発を試みた。中学生は物理や数学で、ものの仕組みを理論的に座学で学ぶものの、実用例を通した体験が少ないため勉強の知識の域にとどまり、真の理解に至っていない実情がある。そのような中学生に対して、防災や耐震の仕組み、省エネなどを学校で学ぶ理論を通して、1/10組立模型を通して学び体験し、生涯の教養とする試みである。2008年から実施し、現時点の受講人数は全体で1608人。平成29年度「日本建築学会教育賞(教育貢献)」、平成30年度「科学技術分野の文部科学大臣表彰」の科学技術賞(理解増進部門)で受賞することができた。


写真1:H30年度建築の仕組みの講座/長岡北中学の3年生

写真2:柱梁のみで組立てる

□教材の開発
1/10組立模型は2008年に開発した。現在のものは二代目で21組あり、一クラスの授業が可能である。在来軸組工法の模型で全体を組立把握できる大きさ(写真1は1階部分)とし、住宅規模は3間×4間の総2階となる。1箱に全ての部材を収納でき(写真2:A1サイズで厚さ約5cm)、持ち運べる大きさ重さとなる。部材の接合部分をホゾと蟻継で再現し、施工手順に従って組み上がっていくことを通して考える。
□異分野融合型の教育体制の構築と領域横断型教育
 中学生にまず建築を模型で見せ、観察させ、あたりまえ故に見えていなかった建築に興味関心を持たせるために、建築の専門家と教育の専門家が連携する異分野融合、つまり総合化を試みた。建築では「計画」・「環境」・「構造」・「施工」に整理、統合し、教育の専門家は、家庭科住生活の視点から教授法を検証した。手法としては、事象の可視化・体験型学習を基本とする協働作業等である。その有効性を確認するために建築講座の前後にアンケート調査を行う。また、建築系と教育系の大学生が加わり、協働作業の潤滑油の役割を持たせ円滑な建築講座の運営を試みた。建築系授業は4領域(計画・環境・構造・施工)に細分化されるが、実際には、各領域が相互に関連し、総合化されている。そこで、領域横断型教育を表現するため、1つの模型を活用して各領域を学習できることとした。


写真3:屋根の雪、筋交い、人体スケール/山古志中学2年生

写真4:筋交いを入れ揺する/北中学3年生

□基礎的な知識を学習するための授業形式
建築講座の前半は、原理原則を学習、基礎的な知識を習得する。後半は主体的・能動的学習する。方法は1/10組立模型を活用したハンズオン形式の学習や体験型学習となるアクティブ・ラーニングである。


写真5:光り環境の実験/山古志中学1年生、2年生

写真6:小屋束を立て棟をあげる/北中学3年生

□まとめ
一つの模型で空間認識(写真3)、耐震構造(写真4)、室内環境(写真5)まで幅広く学べることを実証することができた。住宅を多面的に考えることの重要性を伝えることが可能となった。安全性や快適性の様々な仕組みや工夫を一つの模型(写真6)から学び、日常生活の質の向上と災害時における対策を講じる一助となった。