《富山》ネパールプロジェクト中間報告
AH! vol.63 - 2018/07/10《from 富山支所》
大氏 正嗣/富山大学芸術文化学部 教授
□はじまり
2015年4月と5月にネパールではグルカ地震と呼ばれる大地震が発生した。インド半島とユーラシア大陸が押し合うことによりヒマラヤ山脈が生まれているように、プレート境界に位置するこの地域では一定期間ごとに巨大地震が起きている。しかしながら、ネパールの特に山間地では今も組積造住宅が大部分であり、地震により大きな被害を受けた。
震度そのものは日本の大地震と比べると必ずしも大きいとは言えないが、脆弱な建物が多い状況から大きな被害が出た。特に山間地では大部分の組積造建築物が使用できないレベルに陥った。ただ、所得が低い山間地ではなかなか耐震性の高い建物を建設することが叶わない状況がある。
被災から3年を経過した現在も、様々な理由で十分に住宅が復旧できない現状がある。
□チャレンジ
そこで私たちはネパールのトリブバン大学と協力して、住民たちが自助努力で再建可能な耐震性を備えた組積造住宅を作り出すべく、共同研究を始めている。政府はセメントを目地に使用することを求めているが、ネパールでは山間地では高すぎてセメントを入手できない住民が多い。また補助金で建てることのできる住宅は30㎡ほどと非常に小さく、増築時に補助金を得られなければ勝手に従来の方法で建設する危険性がある。
ところで、そもそも組積造で住宅の建設は難しいのだろうか? 確かに組積造は脆性的ではあるが、次に示す一定の状況に配慮すれば使用可能ではないかと考えた。(1)目地の風化・流出を防ぐ、(2)壁の面外方向変形を抑制、(3)開口配置の設計配慮。ところで、ネパールの世界遺産では、日本の三和土(たたき)に似た仕上げが残されていることが分かった。また、日本でも1900年代初頭に長七三和土と呼ばれる人造石工法が、土木構造物で利用されていた。これらを利用して、石灰を利用した目地による耐震性ある組積造の確立のための研究を現在進めている。
現在新たにUNESCOとの連携を進めており、この手法を歴史的建造物の修復にも適用するべく議論と実験を続けている。