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北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.62 - 2018/04/16《from 富山支所》

森本英裕/職藝学院 専任講師・早稲田大学理工学研究所 嘱託研究員

□地域文化財修復の意義
この「現場レポート」ではこれまで、土蔵・茶室・洋風建築などの修復・新築事例を紹介してきた。今回はこれらの取り組みに共通する特徴について、事例を補足しながらまとめてみたい。
前提として、特徴的なのは本学院が修復の設計や施工を担う組織であると同時に、教育機関であるという点である。大工や庭師を目指す学生達が、教員の指導を受けながら実際の保存修理現場で技術を学ぶ。上棟式や遷座式を古式に則った方法で地域の方々に披露したり、現場で学んだことの研究発表を行うなど、修復の現場を積極的に“教育の場”として捉えている。また、文化財の調査・設計・施工を一貫して行っており、保存修理計画の策定から活用まで修復事業全てに継続して関わることが多いことも大きな特色である。
こうした点を踏まえて、比較的小規模な地域文化財の修復においては、「修復後の活用」のみならず「修復事業の過程の活用」に特に意識的でありたいと考えている。以下、特徴的な事例を一つ挙げたい。


写真1 北鬼江八幡宮 竣工全景

□神社修復での取り組み
魚津市にある北鬼江八幡宮の修復工事(平成25年竣工)では、本学院が調査・設計・施工を担い、木工事と造園工事に実物実習として学生が携わった。その他の工事についても、可能な限りこの地域に縁のある職方に担当してもらうことで、修復現場に住民の方々が立ち寄りやすい雰囲気をつくった。実際、この現場には毎日誰かが現場の見学に立ち寄るようになり、学生と会話をしたり、メンテナンスの方法を聞いたり等、大変賑やかな現場となった。遷座式では御神体を運ぶための舟を学生と教員で作り、上棟式では学生が古式に則った方法で儀式を執り行うなど、地域の住民の方々と協働で行事を行った。こうした行事も修復事業の重要な一部である。
このような取り組みの中で感じることは、どの地域の方々も、何かきっかけがあれば修復の現場に非常に興味を持って頂けるということである。そして、その人数が多いほど修復後の維持管理・活用が丁寧になされていることが多い。修復工事の過程によって、その後に大きな差が生じるのである。


写真2 遷座式では学生が役を担当

写真3・4 上棟式の様子

□地域文化財修復の過程を通して
北鬼江八幡宮や前回までのレポートの事例は、それぞれ小さな取り組みであるが、比較的小規模な地域文化財の修復だからこそ可能となる発展性を含んでいると考えている。地域文化財であるからこそ、学生がそこに関わり学ぶことができる余地があり、住民との連携を容易に行うことが可能となる。若い年齢層が少なくなりつつある地域にとって、遷座式などの行事や祭事に学生が加わることは大きな助けとなるし、学生にとっても自分が大工として参画した建物を住民が喜ぶ姿は今後の励みとなる。可能な限り地域の職方が現場に関わることで、メンテナンスも手早い対応が可能となり、一人でも多くの住民が現場へ足を運んでくれることで、文化財への親しみが生まれる。
このように、修復事業の過程を地域の方々が関わりやすいものにすることによって、地域文化財の修復という特別な時間を住民・職方・事業主体がそれぞれの立場で共有することが可能となるのである。それが次第に各地域の方々にとっての固有の歴史や記憶を再認識する起点となり、結果的に修復後の有効な活用に繋がっていくのではないだろうか。


写真5 北鬼江八幡宮 竣工後のお祭り

関連URL
大工と庭師の専門学校「職藝学院」  http://www.shokugei.ac.jp/