《長野》戸隠の防災計画策定調査スタート!
AH! vol.59 - 2017/07/06《from 長野支所》
松田昌洋/信州大学工学部建築学科 助教
□戸隠の町並み
平成29年2月に長野市戸隠が重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。戸隠は戸隠神社が有名であり、古くから多くの信仰を集めてきた地域です。今回の保存地区である中社地区、宝光社地区は、信仰の拠点として成立してきた門前町で、宿坊群として重要伝統的建造物群保存地区に選定されたのは全国初となります(写真1)。この地域は、宿坊によって信仰を支えてきた社家、そして生産活動を支えてきた農家や職人の在家によって構成され、それぞれの建物が周囲の環境と一体となり町並みを形成しています。
□地震、雪と戸隠の建物
さて、今年度からこの戸隠の保存地区を対象として、防災計画策定のための調査が開始されます。防災というと、火災や地震への対策が大きなテーマになりますが、その中で私は伝統的な木造建築物の地震防災に関する調査を担当することになりました。
戸隠が伝統的建造物群保存地区となるまでに、主に歴史的、文化的な側面から様々な調査が行われました。今回の調査では、町並みを形成している歴史的な建物を構造的な側面から調査・分析し、地震への対策を考えていくことになります。2014年11月の長野県神城断層地震で戸隠は震度6弱を記録し、実際に被害を受けた建物があるなど、地震に対する安全の確保はとても大切です。それと同時に、伝統的建造物群保存地区であることから歴史的、文化的な側面を尊重しつつ、地域の建物の構造的な特徴をふまえた提案が必要になります。
もう一つ、この地域の建物の構造を分析する上で考慮しなければならないのが雪です。戸隠には良質の雪が降り積もるスキー場があり、大きな観光資源となっていますが、雪は防災という面でも深く関わってくる自然現象です。この地域は特別豪雪地帯に指定されており、最大で2m以上もの雪が積もります。今年の3月に現地を訪れた際には、いくらか雪がとけて減っていたものの、まだ2m弱の積雪が残っている場所もありました(写真2)。
こうした環境への対応として、建物の軒が深くなっていることや、建物の周りに設けられる雪囲いなどが挙げられます。しかし、軒が深いゆえに雪の重さに耐えられず変形してしまった屋根や、長期間残る雪の影響と考えられる土台の劣化もみられました。また、北側の屋根に雪が残る場合もあり、偏った雪荷重による柱などの軸組への影響とともに、地震時の挙動もあわせて考えていくことが大切になります(写真3)。
□歴史的な町並み保存と防災
伝統的建造物群保存地区は、そこで生活する人々が中心となり、建物の活用と文化的な価値を考えながら、歴史的な町並みを保存していく文化財の制度です。その中で防災は、生活・建物・文化をまもり、後世へ継承していくための基本事項であり、欠かすことのできないものです。本格的な調査はこれからですが、いくつかの課題もみえてきています。住民の方々、行政の方々と協力して、地域の特徴をふまえた防災計画を考えていきたいと思います。