Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.55 - 2016/07《from 福井支所》

野嶋慎二/福井大学学術研究院工学系部門教授

□はじめに
福井県鯖江市西山動物園は、JR鯖江駅から徒歩15分、福井鉄道西鯖江駅から徒歩1分と便利な市街地の中の西山公園の中にあります。この動物園は日本一小さな動物園と言われ、とても小規模(約3,000㎡)ですが、レッサーパンダが現在11匹と多く、国内でも有数の繁殖実績を誇る動物園として有名です。また入園無料なので気軽に入れるユニークな動物園ですが、開園30 周年を向かえるにあたり、老朽化が進み、動物の見せ方が魅力を十分に表現していないことから、拡張整備行うことになりました。そして今春、新しいレッサーパンダ舎「レッサーパンダのいえ」が開園になりましたので、ご報告します。


写真1 家のような外観


□新レッサーパンダ舎設計の経緯と方針
平成25年3月、鯖江市は西山動物園将来構想委員会を設置し、新レッサーパンダ舎を整備する上で次の方針を示しました。①学校団体が雨宿りできる、②パネルや動画でレッサーパンダを学習できる、③来園者が飼育スペースに入ったような臨場感が得られる、④ふれあい広場的なスペースの確保、ということです。これを受けて、西山動物園友の会と恊働で4回の市民ワークショップを開き、また鯖江市職員や専門家、大学の研究室の学生とは何度も意見交換を行いながら構想づくりや建築設計を進めました。そして新レッサーパンダ舎については、人が気軽に立ち寄れる街の休憩スポットとなるように、パンダにとっても人にとっても気持ちの良い場所とはどのようなものだろうかと考え、次のデザイン方針を設定しました。
①パンダのいえのような展示室
 パンダは、高いところにいると落ち着き、木の上で寝ると言われています。リラックスして活発に遊び、食事し、寝るパンダを見るために、展示室の天井をなるべく高くし(約8m)(写真2)、高いところ(地上3~5m)を回遊できる遊具を置きました(写真3)。遊具や壁は極力木材などの自然素材を使っています。人の歩く通路は狭くし、パンダとの境界は鉄等の柵はつけずに強化ガラスにより仕切ることで、子供の目線でもパンダと近くなれるように、そして人がパンダの家にお邪魔しているような臨場感が得られるようにしました。


写真2 屋内展示室


写真3 地上5mのパンダウォーク


②ギャラリーとラウンジをつくる
 パンダの家系図などの壁面展示やパンダのお産などのビデオが見られ、また様々な企画展示が行えるギャラリーをつくりました。また、北側の緑豊かな美しい山の斜面に向かってラウンジをつくり、そこではコーヒーやお茶を飲みながら座りながら、樹木の上で眠る屋外のパンダの運動場が見ることができます。またパンダの絵本を読んだり、休憩しながら何度もパンダに会いに行くことができます。金網とコンクリートという動物園の雰囲気ではなく、人にとっても清潔感のある家のイメージです。
③人が回遊できて街とつながる動線計画
 パンダの展示室をギャラリーとラウンジで取り囲み、回遊できるようにすることで、何度も展示室に入ることができます。さらに入り口を3カ所つくることにより、園内だけでなく、園外とも道でつながるようにし、公園に散歩に来た人でも気軽に立ち寄れるような空間としました。

□人と街とつながる動物園に
開園(平成28年3月27日)以来、多くの人で賑わっています。特に、子供たちはガラスを通してパンダを近くに感じられるようでとても喜んでいます。5mのはしごを下りてくるパンダには大人の歓声もあがっています。ギャラリーでは、小学生がパンダの写生会を行っています。これからも多くの方に様々な使い方をしていただき、気軽に立ち寄れて、人と街とつながる動物園になることを期待しています。


写真4 パンダの家系図などが展示されたギャラリー


写真5 屋外の展示場が見られるラウンジ