《富山》富山城址公園「富山市 本丸亭」新築竣工・開館 ─職藝学院 現場レポート vol.2─
AH! vol.55 - 2016/07《from 富山支所》
森本英裕/職藝学院専任講師・早稲田大学理工学研究所嘱託研究員
□「富山市 本丸亭」開館
5月20日、茶道をはじめとした伝統文化に親しむ場として、富山城址公園内に「富山市 本丸亭」(以下、本丸亭)が開館した。「本丸亭」は、「お城の茶会」を開催している茶道6流派が集い設立した実行委員会によって企画され、茶室「碌々亭(ろくろくてい)」(前年度本学院で移築復原、富山市発注)の隣に、広く一般の方々からの寄付によって建築が進められてきたものである。
それぞれ炉が切られている8畳と6畳の座敷の座敷を中心に、その間に鞘の間(4畳)、庭に面して入側(9畳)が配置されている。各室の襖や障子を外すことで最大27畳の大広間となり、少人数の稽古から大寄せの茶会まで幅広い利用が可能となっている。床柱や天井板・床板などの内部木材には、「碌々亭」の寄贈者・佐藤工業の佐藤家本邸からの古材が再利用され、外観の意匠とともに、隣に建つ「碌々亭」との連環が意図されている(「碌々亭」については次回、稿を改めて紹介したい)。
その他、佐藤家本邸のあった砺波地方を想わせる本丸亭前庭の「玉石の亀甲積み」や、富山木象嵌の創始者・中島杢堂の「古代瓦の象嵌欄間」、杢堂の孫弟子による「写しの欄間」をはじめとして、県内では珍しい「大炉」、大寄せ茶会に対応した「大水屋」等々、随所に見所が配されている。
*完成式典・竣工の様子 http://www.shokugei.ac.jp/blog/?p=3748
□学生と卒業生との協働作業
本丸亭の木軸部の墨付け・刻み・建方は、実物実習として本学院の学生(建築職藝科 建築コース2年生)とOBとの協働で行われた。学院作業場にて、棟梁が中心となり墨付け・刻みを学生に指導しながら作業を進め、土台敷きから野地板張りまでOBがそれぞれ学生数名ずつを指揮しながら、5日間に渡って建方(上棟)が行われた。初めての建方で覚束ない足取りだった学生が、一人前の大工として日々仕事をこなしているOB達との協働の中で刺激を受け、次第に顔つきが変わっていく印象的な出来事であった。
また、本学院ではこのような実物実習時には毎回、古式に則った上棟式を行っている。今回も2年生全員が役を担当し、古来伝統の「降神の儀式」「上棟の儀式」などを執り行なった。こうした儀式は毎回、参加した学生だけでなく、参列された関係者にも非常に喜ばれることが多い。大工技術と共に後世に伝えていきたい文化である。
*実習の様子 http://www.shokugei.ac.jp/blog/?p=2676%208
*建方実習の様子 http://www.shokugei.ac.jp/blog/?p=3121
*上棟式の様子 http://www.shokugei.ac.jp/blog/?p=3143
□江戸・明治・大正・昭和・平成の茶室が一堂に
この「本丸亭」の完成で、富山城址公園内には江戸・明治・大正・昭和・平成 各時代の5つの茶室が揃うこととなった。江戸期の「柳汀庵」(金森宗和の指導、佐藤記念美術館内)、明治期の「碌々亭」(武者小路千家8代 一指斎「臥雲居」、表千家11代 碌々斎「不染庵」)、大正期の「総桧造りの書院座敷」(佐藤記念美術館内)、昭和期の「助庵」(佐藤助庵、松永耳庵の命名、佐藤記念美術館内)、平成期の「本丸亭」である。これらに伴う茶庭や露地も含めて、各時代を並べて見ることのできる、学術的にも貴重な場所といえよう。
最後に、本丸亭では開館より3週に渡って、茶道各流派が担当し「本丸亭 席披き茶会」が開催された。連日200名を超える人が参加し、盛会のうちに終わったと聞いている。茶道を始め華道や書道・香道など、今後の使用予約も多く入っているとのことで、伝統文化の拠点としての役割を少しづつ担い始めているようである。興味を持たれた方は、是非「本丸亭」に足を運んで頂ければ幸いである。
関連URL
富山市佐藤記念美術館 http://www.city.toyama.toyama.jp/etc/muse/s-art/
大工と庭師の専門学校「職藝学院」 http://www.shokugei.ac.jp/