Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.61 - 2018/01/09《from 新潟支所》

黒木宏一/新潟工科大学工学部工学科 准教授

□小さな集落での試み
新潟県柏崎市に、小清水という30世帯ほどの集落があります。柏崎市内から車で40分程度山間に入った地域で、江戸時代には、柏崎と十日町を結ぶ峠道として様々な人々が往来していた場所でもあります。現在は過疎化の煽りを受け、今後さらに衰退が見込まれるエリアです(写真1)。
そうした中で、若者の力によって、集落住民を巻き込みながら、小清水の魅力や価値を、集落の外に、積極的に発信し続ける取り組みが展開されています。
その先導を切るのが、集落のこれからを考える若者組織「ひゃくいちねん会」です。この「ひゃくいちねん会」は2007年に組織され、この集落が「100年後も存続するために」という思いから設立されました。そうした取り組みの一つとして、空き倉庫をコンバージョンした「EALY CAFÉ」があります(写真2)。
このカフェは、集落の一番奥側に位置し、集落で人々の往来が豊かであった当時、峠の茶屋が存在していたことになぞらえ、「現代の峠茶屋」のコンセプトのもと、2016年にオープンしました(写真3)・(写真4)。


写真1 小清水集落の風景

写真2 高床の倉庫をコンバージョンしたカフェ

写真3 集落の訪問者を迎え入れるエントランス

写真4 倉庫の小屋組を活かしたカフェ空間

□集落の魅力を知ってもらう仕掛け
このカフェでは、集落を集落外の人々に知ってもらう、様々な仕掛けづくりがなされています。看板もなく、主要な道からは外れているため、初めて訪れた人は、まず集落の中を巡り、集落の人に場所を聞き、ようやく集落の奥にあるカフェにたどり着きます。「集落の中に入ってもらうこと」をあえて仕掛けることで、集落外の人々に集落を知ってもらうこと、集落の人に接してもらうことを促しています。また、集落の住民に対しては、カフェを訪れた人との出会いをきっかけにして、カフェの存在や価値を、集落の人に間接的に理解してもらうことにも繋がっています。
若者向けのカフェは、高齢者の多く住む過疎地域でオープンした場合、地域住民との関係は薄く、地域と距離を置いた運営となることが一般的です。一方で、このカフェでは、集落外の人々、集落内の人々が、同じ空間で過ごすといった状況が生まれ、一般的な若者向けのカフェとは異なる、地域に根ざした、まさにこの土地ならではの「峠の茶屋」空間が生まれています(写真5)。


写真5 集落を一望できるカフェ空間

□よそ者の集落づくり、押し付けない集落づくり
こうした取り組みが成功したのは、「ひゃくいちねん会」の中心メンバーが、集落外の「よそ者」であったこと、「よそ者」だからこそ、小清水集落の魅力や、暮らしの特殊性、価値を見出せたことが挙げられます。また、集落の魅力発信のプロジェクトを進める上で、丹念に集落の歴史や魅力を読み取り、「峠の茶屋」というコンセプトを導き出したこと、集落の人々に、一方的にカフェの存在価値を押し付けるのではなく、緩やかに、間接的に知ってもらうこと、さらには、利用してもらう、協力してもらうことで、過疎集落に溶け込む・巻き込む取り組みに繋がっています。

□今後の展開と可能性
今後の展開としては、集落の人々が、利用者ではなく、集落外の人々をおもてなしする「主役」となり得る事業を企画し、これからの集落を、若者が支えるだけでなく、集落住民自らが支える、といった主体の形成へと結びつけることを試みています。若者の力で集落づくりのきっかけが生まれ、その力が集落全体に広がって展開していく、住民主体型の集落づくりの好例と言えます。
小さな集落でのささやかな取り組みではあるものの、集落や集落の人々に根ざし、地域を巻き込みながら展開する手法は、行政やNPOなどの公的機関による取り組みとは一線を画す、過疎集落を元気づける取り組みとして注目されます。