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北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.62 - 2018/04/16《from 新潟支所》

黒野弘靖/新潟大学工学部建築学コース 准教授

□2018年2月2日に新潟県上越市は、市民を対象に平成29年度「高田雁木現況調査」報告会を開催した。上越市による高田雁木の現況調査と報告会は、2010年にも行われていた。それは2005年から2010年に上越市、市民、建築士会、複数の大学により行われた「高田市街地歴的建造物現況調査」の報告会であった。2018年の報告会は、2010年に引き続き新潟大学の黒野研究室が担当した。市は継続的に雁木の記録を市民に伝え、2004年に雁木整備補助金制度を設け、2009年から歴史的建造物等整備支援事業を進めている。ここでは、2010年から2017年の高田雁木の変化と上越市の方針との関係について紹介したい。
□私有地内にある主屋前面の庇が道路沿いに連続した雁木は、高田では、城下町時代以来の31町内に現存する。2010年から2017年の間に総延長は662m減少し、12.8kmとなっていた。上越市には2001年の雁木の設置長さ13.5kmという記録があった。2001年から2010年に1,033m減少していたこと、減少度合いは2010年以降に緩やかになっていることがわかった。
□報告会では町内ごとの調査結果も発表した。4つの町内で雁木の延長が増加していた。一方、50m以上減少した町内が4つあった。理由について、雁木通りのある町内の会長から質問が出された。
□増加した4町内は、比較的近くにあった。いずれも雁木に関する任意協定を町内で締結しており、各戸が市の雁木整備補助金制度を申請できるようにしていた。各町内の整備実績は3~6件だった。
□雁木延長が15m増加した仲町6丁目では、補助金なしで雁木を整備した住戸が38件あった。空地に新築された雁木町家もその例だった(写真1)。仲町6丁目は近世の大工町や大鋸町にあたり、現在も大工や鉄工や仏壇などの生業をミセで行う併用住宅が19ある。2006年には町内の女性8人が雁木での大根干しを再開し、自宅をお茶と昼食の場として開く活動を始めた(おしゃべり処よってきない)。2008年には東京の大学教員が生家の雁木町家を改修してNPO法人「頸城の郷土資料室」を始めた。2012年には2件の雁木町家が有形文化財に登録された。いずれも2005年からの「あわゆき道中」(角巻を着て冬の雁木通りを歩く企画)や、2006年からの「町家三昧」(観桜会に合わせて町家を公開する企画)や、2009年からの「瞽女の門付け」(高田瞽女に扮した三味線奏者が雁木町家を廻る企画)など、市民団体による企画に会場として参加している。


写真1 空地に新築された雁木町家と車庫(仲町6丁目)(上:2017年 下:2006年)

□本町6丁目の北側地区では雁木長さが9m増加していた。2005年に任意協定を締結した。2007年に上越市が大形の雁木町家を地域施設(町内会館)として再生した(設計・関由有子氏)。この高田小町は「あわゆき道中」や「瞽女の門付け」など、まち歩きの拠点となっていた。年3万人の利用が継続していた。高田小町の並びでは、2010年の自費で雁木を建て替えた町家に続き、2011年にその南隣が、2013年にその北隣が市の補助を受けて雁木を改修していた。いずれも高田小町を手本にして、雁木の垂木を現し床に石を敷いていた(写真2)。


写真2 雁木整備の波及(本町6丁目) (上:2017年 下:2005年 右端が高田小町)

□以上のように雁木増加の要因は町内ごとに異なっていた。上越市による「高田雁木現況調査」報告会は、町内の動向をお互いが知る機会となっており、雁木通りがまちの文化として各住戸、各町内、行政と住民、をつないでいることを示していた。