《石川》石川県指定文化財中谷家住宅の保存・活用
AH! vol.54 - 2016/04《from 石川支所》
村田一也/石川工業高等専門学校建築学科准教授
石川工業高等専門学校建築学科では、学外、地域との連携のなかで、いくつかの研究室活動を実施しています。今回は、石川県指定文化財中谷家住宅の保存と活用に関する活動を紹介させていただきます。
2014年度からはじまったこの活動は、能登町教育委員会および中谷家住宅の現ご当主をはじめ能登町黒川地区の方々の協力のもと地域連携活動として現在進行形で進んでいます。活動内容としては、 ・中谷家住宅および附属屋の実測調査を通した図面描画 ・中谷家住宅の所在する黒川地区の祭礼、きりこ祭り、よばれの調査 ・中谷家住宅の所在する黒川地区の建物調査、景観調査 の3つを主たるものとし、地区調査から指定文化財の活用計画を検討しています。 活用の検討の中心として、祭礼調査を計画し、2014年度は、きりこ祭りを見学させていただき、またよばれの際には地域の各家庭へ学生をいれていただき、よばれの体験をさせていただきました。2015年度は、前年度の体験から、中谷家住宅主屋建物で、学生がつくるよばれを試行しました。金沢美術工芸大学との連携により、中谷家に多数保管されている漆器の膳椀を使って、中谷家住宅でのよばれを現代風に再現しました。
中谷家は能登天領庄屋の家柄で、その中谷家住宅の道具蔵には多数の漆器の膳椀が保管されています。そこから使える物を選定し、洗浄することからはじめ、膳椀の組合せを決めました。それを中谷家住宅の下座敷と中座敷に並べ、よばれ空間を創出することができました。夜は、地域の方々のご協力で料理も用意され、中谷家住宅の建物空間を使ったよばれが再現されました。 実測調査による建物図面の描画については、2年間で主屋および付属屋、塗蔵、道具蔵、米蔵、厩跡、門、塀などの調査をおえ、図面が完成しています。中谷家住宅の蔵のひとつは輪島塗の漆蔵で、おそらくは最大の輪島塗作品といわれています。 中谷家住宅の今後の活用を考えるための縁として、中谷家住宅の所在する黒川地区の建物と景観についての調査もはじめました。今年度は建物調査として、地区内全52戸について、屋敷地内の建物構成について調査してきました。黒川地区は旧柳田村に属し、文献調査から旧柳田村にみられた屋敷地内の建物構成を調べ、それと黒川地区の建物構成について比較分析していきます。
これらの活動は、建築・地域計画、歴史・意匠に関連する調査を基礎として、地域連携から共同研究を進めます。一方で、このような地域での共同研究の活動から、共同教育の拠点構築という視点ももっています。学生にとっては、実地において専門性に対する理解や社会の要請を知るきっかけとなり、地域の方々とコミュニケーションをとりつつ調査等を進めていくなかで、主体的に考える力や社会のさまざまな課題を解決に導く能力がつくものと考えています。